インフルエンザワクチン
インフルエンザワクチン(英語:influenza vaccine)とは、インフルエンザを予防・軽減するためのワクチンである。
概要
インフルエンザワクチンとは大雑把に言えばインフルエンザウイルスのH鎖(とげとげ)を砕いて丸くしたものである。例えるならトゲのないウニみたいなものである。これを投与することでインフルエンザウイルスに感染するがH鎖(とげとげ)がないため症状は軽度で済み、その間に免疫をつけましょうという代物である。
稀に不活化が不十分なワクチンが混入していることもあり、普通にインフルエンザの症状がでる場合もあったりする。
なお、ロシアやアメリカでは「LAIV」と呼ばれる点鼻(鼻スプレー)によって鼻から投与できる生ワクチンも使われているが、今のところ日本では認可されていない。よって日本でのインフルエンザの予防接種と言えば不活化ワクチンの注射である。
安全性
インフルエンザワクチンに限った話ではないが、古くからワクチン全般の安全性と倫理について肯定派と否定派に分かれての「ワクチン論争(Vaccine controversies)」というものが世界的に繰り広げられている。
インフルエンザワクチン注射による副作用および副反応には以下のようなものがある。
これらは通常、注射後すぐ、または遅くとも1~2日で反応が出始める。[1]
なお、非常に稀ではあるが生命にかかわるほどのアレルギー反応を示す場合もある。
この他にも一部のインフルエンザワクチンに含まれるチオメルサールなどの防腐剤の是非を議論している人もいるが、少なくとも世界保健機関は安全性を否定する理由は今のところ見つかっていないとしている。[2]
卵アレルギーについて
ワクチンは鶏卵から作られている(鶏卵で培養している)ので、卵の加工食品を食べるとアレルギー症状が出るほど重度の「卵アレルギー」の人は禁忌である。いわゆる。
なお、「ダメ。ゼッタイ。」ではなく、分割して接種できる場合もある。
接種後は1時間程度、病院で待機するのが望ましい。
ギラン・バレー症候群の発症リスクについて
インフルエンザワクチンを接種することでギラン・バレー症候群が発症するというリスクが古くから実しやかに語られていた。
これについて2009年秋に発生した新型インフルエンザ(いわゆる豚インフルエンザ)の世界的な大流行(いわゆるパンデミック)の際に、どさくさに紛れて大規模調査が行われ、その結果50~100万人に1人程度と非常に小さいながらギラン・バレー症候群が発症するリスクがあることが報告された。 [3] [4] [5]
なお、数字でいうとワクチンを接種せずにインフルエンザに感染して死亡する確率(1万人に1人)の方が遥かに高いと結論付けられている。 [6] [7]
保護期間
季節性インフルエンザの予防接種は通常2~4週間後に抗体価のピークに達する。そこから半年くらいかけて抗体は約50%まで減るが、その状態が1~3年は持続する。とくに子供などの若い人ほど持続性が高く、だいたい3年付近に集中する傾向がある。 [8]
なお、いわゆる新型インフルエンザと呼ばれる物の場合はこの限りではない。
予防接種の推奨事項
世界保健機関や厚生労働省などでは、なんらかの疾患にかかっており、インフルエンザに感染することで合併症のリスクがある患者、およびその家族などは予防接種を受けることを推奨している。
- 高齢者
- 慢性肺疾患(喘息やCOPDなど)の患者
- 慢性心疾患(心不全など)の患者
- 慢性肝疾患(肝硬変など)の患者
- 慢性腎症(ネフローゼ症候群)の患者
- 免疫抑制剤(抗HIV薬や抗癌剤、ステロイドなど)を使用している患者
- 集団生活している人(学生寮や老人ホームなどは急速に広がるので)
- 有名人(公衆の面前に出ると急速に広がるので)
- 医療従事者(患者から感染、患者へ感染を防ぐため)
- 妊娠している女性
- 乳幼児(抗体ができていないリスクが高い)
市場規模
ビジネス情報を提供する英グローバルデータが発表した2012年11月のリポートによれば、全世界のインフルエンザワクチンの年間売上は24億ドル(約2224億円)であるとされる。
一見すると大きな数字に見えるが、RNAウイルスであるインフルエンザウイルスは変異がとても早く、そのたびにインフルエンザワクチンも作り直しとなるので、製薬会社的には大して儲かるビジネスではないと言われている。
関連項目
参考文献
- ↑ CDC - Inactivated Influenza Vaccine 2007-2008 - What You Need To Know
- ↑ Global Advisory Committee on Vaccine Safety (2006年7月14日). “Thiomersal and vaccines”. World Health Organization. 2007年11月20日閲覧。
- ↑ Denise Grady (2009年12月4日). “Review Shows Safety of H1N1 Vaccine, Officials Say”. The New York Times . "No substantial differences between H1N1 and seasonal influenza vaccines were noted in the proportion or types of serious adverse events reported"
- ↑ Vellozzi C, Burwen DR, Dobardzic A, Ball R, Walton K, Haber P (2009 March). “Safety of trivalent inactivated influenza vaccines in adults: Background for pandemic influenza vaccine safety monitoring”. Vaccine 27 (15): 2114–2120. doi:10.1016/j.vaccine.2009.01.125. PMID 19356614.
- ↑ Steven Reinberg (2011年2月2日). “Last Year's H1N1 Flu Vaccine Was Safe, Study Finds”. U.S.News & World Report
- ↑ Stowe J, Andrews N, Wise L, Miller E (2009 February). “Investigation of the temporal association of Guillain-Barre syndrome with influenza vaccine and influenzalike illness using the United Kingdom General Practice Research Database”. Am. J. Epidemiol. 169 (3): 382–8. doi:10.1093/aje/kwn310. PMID 19033158.
- ↑ Sivadon-Tardy V (2009 January). “Guillain-Barré syndrome and influenza virus infection”. Clin. Infect. Dis. 48 (1): 48–56. doi:10.1086/594124. PMID 19025491.
- ↑ Duration of Serum Antibody Response to Seasonal Influenza Vaccines: Summary, presentation citing references