認知的不協和
認知的不協和(読み:にんちてきふきょうわ、英語:cognitive dissonance)とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態になると、これを解消するために自身の態度や行動を変化させる現象のことである。 認知的不協和は宗教や詐欺、戦時下の捕虜などにおいて洗脳の手法として広く用いられている。
概要
仮説
認知的不協和はマサチューセッツ工科大学の心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された。 レオンが31歳のときに潜入したあるカルト集団において、教祖の予言が外れたにも関わらず、信者が増えていく様を目の当たりにし、「人は自身の中で矛盾する事象を抱えた場合に、これを解消するために自身の態度や行動を変化させるのではないか」という仮説をたてた。
実験
この仮説を検証するため学生を使った実験を行った。 まず学生を二つのグループにわけ、単調でつまらない仕事をさせた後に、その報酬として片方のグループには20ドルを、もう片方のグループには1ドルを与え、最後に「この仕事は面白かったか?」と聞いた。
その結果、報酬20ドルのグループの大半は「つまらなかった」と答え、報酬1ドルのグループは逆に「おもしろかった」と答えた。
レオンによれば、20ドルのグループは、
- 「仕事が単調でつまらない」
- 「つまらない仕事だから報酬が良かった」
という二つの認知が一致しやすいため、仕事のつまらなさを肯定した。
一方で1ドルのグループは、
- 「仕事が単調でつまらない」
- 「つまらない仕事なのに報酬も少ない」
という二つの認知は対立しやすいため、その不満やストレスを解消するために「単調だけどやってると面白い部分もあった気がする」と己の行動を正当化し、認知的不協和を解消しようとした。
実例:たばこ
この認知的不協和の実例としてよく上げられるのが喫煙者の心理である。
喫煙者の大半は「タバコは身体に悪い」と認知している。 だが、禁煙するだけの強い意志はない。
そこで「タバコを吸っていても肺ガンになるとは限らない」「喫煙者でも長生きしている人はいる」などと思考を変化させ、自身の矛盾や偽善を正当化する。
実例:中国人民軍
朝鮮戦争当時、中国ではアメリカ人の捕虜に対して、一握りの米や菓子、1本のタバコなど、少しの報酬を与える代わりに、反米的な文章を書かせるという洗脳を行っていた。厳しい拷問や多額の金銭で買収するのではなく、信念に反する行動に対して報酬が少なければ少ないほど洗脳対象の心理に不協和が生まれる。
この中国で古くから取り入れられていた洗脳手法はレオンが認知的不協和を発表するより前の話であり、いわゆる4000年の歴史である。
パラダイム
フェスティンガーは不協和にいくつかのタイプを見出している。