フィルムレス
フィルムレス(英語:filmless)とは、X線一般撮影などの画像診断に用いられてきたフィルムを捨て去り、いわゆるPACSなどと呼ばれるコンピューターの画面に映し出して画像診断しようという試みである。
概要
厳密な意味でのフィルムレスとは、厚生労働省の公布する「医療情報の安全管理に関するガイドライン[1]」に則り、医用画像を法的原本として適切に保存管理するシステムと、それを適切に運用する手順書(運用管理規定書)を作成し、それに則り運用することである。本来はこの厳密な定めに完全に従わなければ電子画像管理加算は受けられず、診療報酬を受けとることはできない。
フィルムレス化をすると医用画像はデジタルデータとして保管されることになるため、e-文書法が定めるいわゆる「電子保存の三原則」に従う(従った構成のパソコンを使う)必要がある。これにより法的原本として認められることになる。
運用管理規定書の書き方については医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)が公開している「診療録等の電子媒体による保存に関する解説書[2]」に運用管理規定の書き方の例が掲載されており、これを雛形として利用することで効率的に作成することがでる。
保存期間
医用画像の保存期間は法定で、診療終了から3年間、または撮影日から5年間となっている。
フィルム運用で5年間も蓄積すると倉庫から探し出すだけでも一大事であり、莫大な数の患者の、そのまた莫大な数の検査が大量に蓄積されると、倉庫から人力で探し出すのは限界があり、よほど重篤な患者でも無い限り、実質的に医療訴訟時に引っ張りだすくらいであった。
一方、フィルムレス運用であれば過去画像を探すのも桁違いに簡単である。5年という数字は医用画像を可逆圧縮で保存するか非可逆圧縮で保存するかのタイミングであるとも言える。一部のシステムでは指定年数を超えた段階で自動的に非可逆圧縮を行うようなものも存在している。ただしHDDなどのストレージ機器は容量あたり価格が年々下がり続けているため、非可逆圧縮で保存する必要性は今となっては疑問が生じる。
コスト
一般的にフィルムレスシステムの導入コスト(初期投資)は非常に高い。一方でフィルムなどの消耗品や現像液などの産業廃棄物が発生しないことにより運用コストは圧倒的に低い。よって長期的にみるとトータルで変化なしである。
ただ、医療機関から見た場合にはフィルムなどの消耗品は少額出費の繰り返しであるため、まるでコンビニで小額商品を定価買いするかのごとくコスト意識には転嫁されておらず、逆にフィルムレス化に伴う不定期な出費が人間の心理として気になってしまう事が多い。これは見方を変えれば病院は不快感を示す一方で、業者は儲からず、エコシステムは崩壊し、コダックなどの世界的な老舗メーカーが次々と倒産する事態の原因でもあるともいえる。
また、フィルムレス化で「コストが下がる」「コストを下げよう」と思ってる奴は底抜けの馬鹿であり、法定となる保全性に従えばコストが安くなることなどありえず、「コストが下がる」と言っている一部の愚か者はこの保全性を犠牲に違法な製品を使用していることがほとんどである。さらに不慣れなシステム操作に医療従事者全員がなれるための期間や教育機関、障害発生時の影響の大きさはフィルム運用の比ではない点などを考慮するとやはりコストが大幅に下がるということなど無い。
よって、フィルムレス化において重要なのは過去画像比較や統計分析などの「情報の新しい見方ができる」という点であるといえる。
ちなみにフィルムレスだと意気込んで導入したものの、実際にはCTやMRの稼働率が低いと大赤字になる。そのようなフィルムレス化で赤字になる事例の多くは、RISの運用が不適切であり、検査予約体制に不備がある場合が多い。
その他
2008年度の診療報酬改定により中規模以上の医療機関ではいわゆるバブル状態となった。 一方で小規模の医療機関はその波に乗れず、今なおフィルムレス化は実現できていない。 これは厚生労働省の思惑どおりであると言える。
備え
PACSに限らず、稼働率100%のシステム、絶対に壊れない機械設備はありえない話である。よってフィルムレス化をした場合であってもシステム障害時には速やかにフィルム運用に切り替えられる体制が必要である。東日本大震災のときに紙カルテもパソコンも壊滅的だったがフィルムだけは強かった、フィルムを紙代わりに即席カルテという話もあるくらいである。